「人が育つ場所として会社を機能させる」
そんなあり方を貫き、会社というものの存在意義に一石を投じているのが、アソブロック株式会社。
利益追求のための集団、という意義をファーストに置かない会社として、試行錯誤を続けながら人が育つ場所として会社を定義し続けている。
その代表を務めているのが、団遊(だん・あそぶ)さん。
畑さん、岩崎さんとも10年以上前からの付き合いがあり、お互いのこともよく知る方です。
HOPとは、演劇メソッドを使ったワークショップ「Theater」や、経営の現場に携わる人々が集い、経営課題のケーススタディーを重ねる「RHRB」で協業しています。
本記事は、カンパニーエディター(エドゥカーレ)が取材・編集を担当。
今回は団さんへのインタビューを通じて、二人との出会いから「人事の寺子屋」などHOPの活動への印象、そして自身が持つ人と会社の関係への想いを紐解いていきます。
お話を伺った人

団遊さん
だんあそぶ/1974年京都府生まれ。雑誌編集者としてキャリアをスタートし、徐々に編集領域を広げ、ヨノナカの編集をしたいと考えるようになる。現在はメディア編集から出版業、アパレル、地域活性、デザイン業、他社の経営支援業まで幅広く手掛けている。会社を「人が育つ場」と定義し「結果を出すのは当然として、関係するすべての人に成長機会を提供すること」を優先して仕事をしている。
ライターから「世の中を編集する」会社へ。アソブロック設立の背景
団さんがアソブロックを設立したのは、2003年。自身が27歳のときだったそう。
もともとは雑誌などのライターからキャリアをスタートし、その後は領域を編集に広げ、平面だけじゃなく、空間やいろんなものも編集という技術の延長にあるんじゃないかという思いから、「世の中を編集する」アソブロックを設立した。
「20年以上変わらず続けているのが、人が育つ場所として会社を機能させることです。事業はすれど、利益追求をファーストに置かない会社というのもあるんじゃないかと。試行錯誤を続けながら、人が育つ場所として会社を定義し続けています。」
「なのでスタッフにも兼業を推奨していて。同じことをするんじゃなく、分野の違うことを掛け合わせてやっていくことで、本人も成長するし、何か気づきを得ることもある。うちの会社ではそういったことを大切にしています。」
人を“経営の材料”にしない。はじまりは20年前の取材
そんな団さんがライターだった頃に出会ったのが、当時スマイルズという会社の人事の責任者をしていた畑さん。人材系の雑誌の特集のために取材したのがきっかけだったという。
「そのときの話がめっちゃ面白かったんですよ。この人めっちゃおもろいなと思って、ちょっとご飯でも行きましょうよと誘って仲良くなったのが畑さんとの出会いで。もう20年くらい前なので、今でこそお互い若かったなって笑いあうくらい若かったですね。」

畑さんのことを面白いと感じたのはどうしてだったのでしょう。
「当時から畑さんは、人事を経営の材料というふうに見ていなかったんですよ。会社って一つの方針があり、事業の伸ばし方があり、それに資するスキルを持つ人を採用する。そういった人事計画が普通だけど、畑さんは『そんなの馬鹿馬鹿しくない?人のことをなんだと思ってんの。』みたいなスタンスで(笑)。」
「人は事業を伸ばすための道具じゃない。人が伸びるし事業も伸びる。どっちが良いってことはないけど、あくまでも人中心主義。取材の時も、周りにも人がいるのに自社のことを否定的に喋っていたんです。こういうところがうちの会社は今イケていないとか。そういうところに面白さを見いだしました。」
その後、畑さんは寺田倉庫で人事担当の役員に。団さんはアソブロックを立ち上げ、組織課題の解消に伴走する事業をしているときに、岩崎さんを紹介してもらったそう。
「寺田倉庫の組織課題をどうやって解消していこうかということで、演劇を活用したワークショップをやりましょうとこちらが提案して、畑さんも『面白い、やろう!』と。4、5回連続で開催したんですが、そのときに岩崎さんに会ったんですよね。」
「畑さんには、私と全然違うタイプだからって言われていたんですけど、正直なことを言うと、なんか堅物な人だなっていうのが私の第一印象でした。」
堅物な印象…そこから印象は変わったんでしょうか。
「変わりましたね。岩崎さんが変わったというか、僕が理解ができただけなんでしょうけど。岩崎さんは器用な人なので、当時は期待される役割を果たそうとしてのあり方だったんだなと時間を経て気づいて。」
「彼の真ん中にあるのは、世の中が幸せになるための会社のあり方について、自分が感じていることを伝えておきたい、ということが本当は芯にあるんだなと感じたんです。それはアソブロックのことを面白がってくれたのが大きかったですね。僕が考えていることにも興味を持ってくれる人なんだって。」

数字だけを追求するような経営の考え方を持っていれば、団さんの考える会社のあり方に興味を持つ人は少ないかもしれない。
岩崎さんはそういうタイプではなかったことが、団さんのなかで自身と共鳴するものを感じる瞬間だった。
「会社の在り方を問い直したいと岩崎さんが心の中で思っていて、どこかのタイミングでしっかりと形にしたいと考えている。そう私は感じていて。そこから岩崎さんの印象が変わっていきましたね。なのでHOPでは、まさにやりたいことを実現しているのかなと見ていて思います。」
現在は団さんが発起人となり、岩崎さんもメンバーに加わっているRHRB(Reimagine How to Run our Business)で仕事を共にしているそう。
RHRBは経営の現場に携わる人々が集い、RHRBメンバーからのレクチャーや各社が向き合う経営課題のケーススタディーを重ねる場。岩崎さんの強みも活きている。
人に寄り添いながらも、甘やかさない。二人の“優しさ”の形
畑さんと岩崎さん。タイプこそ違えど、根っこにあるものは共通している二人を見て、団さんはバランスの良いコンビだと話す。
畑さんが情熱的で人を起点に会社を考え、人に寄り添う。一方で組織として事業をうまく回していくための仕組みづくりや数字の面などは岩崎さんが見る。
その組み合わせがあるからこそ、HOPに対する安心感は増していると言えるのではないだろうか。
「二人とも優しいですよね。伴走しようという姿勢に優しさを感じるのは、二人とも共通しているなと思います。寄り添い方はもちろん違うかもしれないですが。」
「協業するときって、ここはうちの領域で、ここから先はそちらでやってくださいっていう境界があると思うんです。もちろんその境界は大事で、この先はあなたですよって言われることで頑張らなきゃって思える。だけどその境界でバチっと切らないというか…HOPのお二人は切られたと思わせないというか。」
切られたと思わせない。
「そう。いいよ、付き合うよっていう感じで寄り添ってくれる。だけど代わりにしてあげましょうということではない。代わりにやったらその人が育たないので。」
「『代わりにしてあげたらあかん、できるようにしてあげやなあかん。』っていうのは二人とも筋を通して守っていると思うんです。その寄り添い方が優しいなって。これがHOPらしさなのかなと思いますね。」
例えば畑さんの場合。お客さんであっても、ちゃんと真剣に怒ることが優しさだと団さんは話す。
「人とちゃんと向き合うのって、非常にエネルギーがいるし、しんどいじゃないですか。ビジネスシーンでドライに割り切ってもいいところを、畑さんは一歩踏み込んでちゃんと怒りに行くんですよね。そんなことしたらあかんと思うって。」
「言われてるほうは、こっちがお金払っているのになんで怒られやなあかんねんとか思うかもしれないですけど(笑)。でも時間を経て、あのとき怒ってもらえて良かったと思えることが多い。僕もいつも怒られている気がするんですけど(笑)。」
「岩崎さんは、例えば僕から『ちょっと1時間ほどブレストに付き合ってくれませんか』ってメッセージをすると、『了解しました、喜んで』って返してくれるんです。『喜んで』という言葉を入れるのが優しさだし、当事者として自分が頑張らないとって思える。二人と関わっていて、いろいろな場面で優しさを感じています。」
「人事の寺子屋」で得た学び。“人事を人事に留めない”という発想
HOPとアソブロックでは、演劇のワークショップなどで協業している。
そんな関係性の中で、アソブロックのメンバーの一人が、HOPが主催している「人事の寺子屋」に参加していた。
「うちのメンバーが一人通っていたんですよ。彼女は人事の寺子屋に通って、人ベースの経営をすごく考えるようになって帰ってきたんです。もともと性質としては畑さん寄りというか、人ファーストな考え方を持っている人だったんですけど、人事の寺子屋に行ったら、もちろん畑さんの話に感銘を受けたけど、岩崎さんの経営の考え方にすごく感銘を受けていたんですよね。」

「つまりは、会社がなぜ利益を上げるのか、利益をどのように再投資するのか。その再投資の一つの策として人的資本があるよっていう、組み立て方を学んできたんだと。彼女にとってとても良い時間になったと思うんですが、そこからHOPがやっていることの意義につなげると、『人事を人事に留めない』ことが大きいんじゃないかと思います」
人事を人事に留めない。
「人事を、人材の配置・採用・育成の循環で利益を上げる一つの機能に留めるだけじゃだめだと。会社は人が真ん中にあって、たとえ営業であっても売上だけじゃなく、会社全体を見るために人事のことを学ぶ重要性をHOPは常に訴えている。」
「だからこそ人事の寺子屋では、まず岩崎さんが『会社にとって利益とは何か』という話から始まるんだと思うんです。つまり人に優しい会社を作るためには、ここから考えないとだめだよねって。」
「人に優しいということは、きっと社会にも優しい。人事の寺子屋も、個別のコンサルティングも、ひいては人に優しい会社が社会に増えて、みんなにとって生きやすい世の中を作っていく。そこがHOPの成し遂げようとしている大きな目的なんじゃないかな。」
人が真ん中にある会社へ。自己破産を経て気づいた「人のための会社経営」
最後にあらためて、HOPと団さんが共鳴しているその根っこにあることを聞いてみる。
「共鳴しているのは、『やっぱり人と人だよね』っていうことだと思いますね。」
「ちょっと昔話で恐縮ですが、僕が20年以上前に会社を作った当初は、上場しようと一生懸命やっていたんです。ただあるときすごく負債が大きくなってしまって、創業4年目ぐらいで自己破産が頭をよぎるような窮地に陥った。そのときに、その後長く仕事をともにする数名から『お給料がなくても、もうしばらく一緒に頑張るよ』って言われたんです。そこが経営者としての大きな分岐点だったんですよね。」
「それまでは社員に給料を払うのが最低限の義務だと思っていたのが、給料を払えない状況になっても働き続けてくれる人が現れた。そうすると、何でそんなこと言ってくれるんやろって思うわけですよ。当時の僕の価値観からは信じられない。」
「その彼らに教えてもらったんです。働く人たちが、仮に給料が出ない場所でも居たくなる場所にしておかないといけないって。とことん考えていった結果、人が育つ場所としてのアソブロックがどんどん洗練されていきました。」

人が育つ場所。そうあるために、アソブロックではさまざまな事業を行い、スタッフには「兼業をしなさい」と言っている。
「ずっと同じ事業をしていると、本当に自分がしたいことに出会う可能性が低くなると思っていて。ずっとブラジルにいてブラジルが好きになるのと、世界中を旅した結果ブラジルが好きになるのとは、深みが違うと思うんです。」
「自分が生きてきた意味はこの仕事をすることにあったんだという仕事に出会えたら、それに導いてくれた仕事はすべていい仕事だと思えるはず。アソブロックで働く人が、うちの会社のことをそんな存在だと感じてくれたらいいなと思っています。」
団さんの場合、人が真ん中にある会社へ価値観が変わるきっかけは自身の大きな体験からだった。
そのように価値観が変わるには、自分で経験するしかないものなのだろうか。それとも「人事の寺子屋」のような外部からの刺激によっても変われるものなのだろうか。
「座学で変わることが可能か不可能かで言うと、可能だと思います。自分自身の体験よりも時間はかかるし、可能性は低くなりますけど、不可能じゃないと思います。」
「だからこそ、HOPの存在意義はこれからもっと大きくなっていくんじゃないかなと思うし、HOPのお二人や僕みたいに会社の在り方を考えてくれる人が増えたら嬉しいなと思いますね。」
「やっぱり人と人だよね。」
団さんのこの一言に、HOPとの関係性のすべてが詰まっているように思います。
人が育ち、会社が育つ。そのシンプルでまっすぐな信念が、これからの働く場の未来を照らしていくように感じました。
(編集 / エドゥカーレ)