資本主義の使い方

 

ベルリンの壁が崩壊して冷戦が終結した1989年11月。あれからちょうど30年が経過しました。

第二次世界大戦の終わりから40年余、世界を二分した民主主義・資本主義陣営と社会主義・共産主義陣営の対立は、資本主義の経済力に抗えなくなった社会主義・共産主義陣営の瓦解で終焉を迎え、各国はいっせいに雪崩を打って市場経済へと向かって行きました。

それから30年の間に、グローバリゼーションと情報・通信革命という歴史的な大波を経験して私たちの生活は一変しました。インターネットの普及で人々はいながらにしてあらゆる情報を入手できるようになり、デジタル化した通貨が世界を瞬時に駆け巡る。世界の市場と情報を手に入れた企業はかつてない規模に巨大化し、国家を超える力を備えるようになりました。

しかしながら、冷戦の勝者であったはずの自由主義・民主主義というイデオロギーは世界に浸透することはできませんでした。自由や人権を阻害する強権国家や西側諸国で台頭する極右勢力の存在を見てもそのことは明らかです。一方で、「黒い猫でも白い猫でも、ネズミを捕ってくるのが良い猫だ」という鄧小平の言葉の通り、経済さえうまく回せば政権の良し悪しは問われない経済至上主義は地球の隅々まで広がっていきました。この30年で世界中に経済至上主義が行き渡った影響を、私たちはIT革命と同じくらいしっかり認識しておく必要があると思います。

資本主義は富を生み出す仕組みとしては大変優れていますが、それは自由主義・民主主義のような人間の本質に根差した価値観ではなく、あくまでも人間社会の道具にすぎません。そして、道具である以上、それは人間の使い方次第で良いものにも悪いものにもなるのです。

市場経済のグローバル化によって、21世紀に入る頃には富の偏在や格差が許容できるレベルを超え、それが9.11の悲惨なテロに繋がっていきます。同じ年には、全米有数の大企業エンロンが巨額の粉飾で倒産するという事件が起こり、2008年にはリーマンショックで資本主義と市場経済の行き過ぎが明らかとなり、世界中で多くの人が深い傷を負いました。

こうした様々な事件を教材として、私たちは、資本主義とそれを支える市場経済という富を生み出す道具を人間社会のために上手に使いこなす知恵を身に着けなければなりません。

私たちが働く会社も資本主義を構成する重要なパーツです。会社は人間社会の重要な構成要素ですが、道具の使い方を誤り、大きな傷を負う事例は後を絶ちません。有名企業の後を絶たない不祥事や、ハラスメントやメンタルダウンなどの病理に侵された会社は数え切れません。

いかに売上や時価総額が大きくてもこうした会社を美しい会社とは言えません。富を生む道具としての会社を上手に使いながら、お金では得られない人間にとって大切な価値も生み出していく。経済至上主義を超えた人間のための資本主義を実践する会社が増えれば、人間社会は今より間違いなく良いものになります。

強いだけの会社ではなく、美しいと感じる会社。これからHOPは多くの人たちと一緒に「美しい会社」という概念を育てていきたいと考えています。

次回は「ヒトとしての会社」と「モノとしての会社」という切り口で、会社の現在と未来について考えてみたいと思います。