HOP Library #3 『作り出す者、持ち去る者 – ウォール・ストリートはいかにして産業を破壊したか』(ラナ・フォルーハー著、2016年 クラウンビジネス 未邦訳)

金融界による米国の政治と産業支配の実態を赤裸々な実話を交えながら鮮やかに描き出した話題の書。著者はフィナンシャル・タイムズのビジネスコラムニストで、CNNのグローバル・エコノミック・アナリスト。

原題は、”Makers and Takers – How Wall Street Destroyed Main Street”  (Rana Foroohar, Crown Business, 2016) 未邦訳。

2008年9月、サブプライムローンの破綻で発生したリーマン・ショックは、肥大化する金融ビジネスが深刻な社会不安を生み出している実態を明らかにした。米国では上位1%の富裕者が下位90%の合計よりも多くの資産を保有し、CEOは一般社員の300倍の年収を手にしている。労働の外注化と極端な富の集中は、中間層を崩壊させ、深刻な社会の分断を生み、2016年にドナルド・トランプを大統領の座に押し上げた。

ティム・クックのアップルは、1450億ドルの銀行預金と毎月30億ドルの現金収入があるにもかかわらず170億ドルの借入を行った。スティーブ・ジョブズなら決してしなかっただろうと著者は言う。2006年マイクロソフトが新技術への投資を発表すると株価は2か月連続で下落し、4か月後200億ドルの自社株買いを発表すると株価は7%上昇した。リーマン・ショック後の金融規制の中核を為すボルカ―・ルールを議論する公聴会のメンバーは、九割以上が規制される側の金融界の人間だった。

この本は、シティグループ、フォード、エンロン、GEなど、冷戦後の経済の表舞台に立った象徴的企業や数々のスター経営者が興味深いエピソードとともに登場し、その成功と失敗、米国主導の株主資本主義と市場経済が金融経済を肥大させ、産業を衰退させ、中間層の人々を疲弊させていった過程を生々しく描いている。それは単に経済の失敗に留まらず、格差、貧困、暴力、そして自然破壊という21世紀の深刻な社会問題の温床となっているのである。

「持ち去る者」となった金融はもう一度「支える者」に回帰できるのだろうか。リーマン・ショックは決して終わっていない。

(岩崎)