「本物」と言われて社員が泣いた【対談 西田明光×畑敬子×岩崎春夫】

兵庫県猪名川町(いながわちょう)。

大阪から車で一時間ほどの里山に、4ヘクタールの段々畑があります。育てているのは、有機のにんにく。耕しているのは、発達障害や精神疾患とともに生きる人たちです。

株式会社ディスカバリープロジェクト。代表取締役の西田明光さんが、長男の発病をきっかけに、福祉の経験がないまま立ち上げた会社です。掲げているのは「地域再生×上質な福祉サービス×ビジネス」という理念。

HOPの畑敬子氏と岩崎春夫氏がパートナーの尾森明実氏と3人でこの会社を訪ねたのは、今年の4月3日。きっかけは、オフィスに届いた一通の手書きの手紙でした。

本記事は、カンパニーエディター(エドゥカーレ)が取材・編集を担当。

手紙から始まった出会いと、そこから紡がれている物語を紹介します。

取材・編集/エドゥカーレ

一通の手紙が届いた

岩崎 ある日オフィスに行ったら、知らない会社から荷物が届いており、そこには一通の手書きの手紙と、「コンパス」という冊子、そして有機栽培の黒にんにくが入っていました。

手紙にも驚いたんですが、そのコンパスがものすごくよくできていたんです。いい意味で福祉事業らしくない、明るいしゃれたデザインで、会社が社員に約束すること、行動指針、業務に臨む姿勢などがとてもわかりやすく的確に書かれている。経営者の社員への愛情が感じられて、これはすごい会社だと。

※コンパス=ディスカバリープロジェクトの行動指針

HOPに届いた手紙やコンパス、黒にんにく

畑 めずらしく岩崎さんが興奮気味に連絡してきて。「すごいのがきたよ」って。私も手紙とコンパスを見て、これはすぐ行こうとなって。桜が本当にきれいな日におじゃましたのが最初の出会いです。

── 西田さんは、なぜ手紙を書かれたんですか。

西田 1月に、岩崎さんが翻訳をされた『人間主義的経営』という本を読んだんです。ブルネロ・クチネリの思想とやっていることにももちろん感動したんですけど、岩崎さんのあとがきに、すごく気づかされることがあって。

そこに書かれていた、「小さい会社でも、強く美しい会社をつくっていきたい」という一節に、あっ!と思ったんですね。

感動した内容を手紙にしたためて、コンパスと「ジャーニー」という事業説明の冊子、そして自社で栽培している黒にんにくをお送りしました。すると、一週間もしないうちに岩崎さんからお返事をいただいて。

4月に畑さんと岩崎さんが訪問されたとき、ダメ元で支援もお願いしようと思っていたら、お二人のほうから支援させてほしいと言ってくださったんです。

福祉のことは、何もわからないまま

西田 私はもともとはサラリーマンで、岩崎さんと同じ繊維業界の専門商社にいました。

13年前、長男が18歳のときに統合失調症を発症しました。なんとか社会復帰させたいと思って調べるうちに、障害福祉サービスというものがあると知ったんです。

ただ、ずっとビジネスをしてきた人間として、民間企業のサービスと、障害福祉サービスとのあいだにすごくギャップがあると感じたのです。それが大変ショックでした。

── どんなギャップだったんでしょう。

西田 これは当時、僕が訪問したいくつかの事業所での話ですけど、こちらは藁にもすがる思いなのに、スタッフがまともに挨拶をしてくれないとか、こっちが真剣に相談している横で、スタッフが笑って話をしているとか、そういうことが重なったんです。

その後、息子が急性期で、都会で普通に暮らせないほど状態が悪化してしまったので、猪名川町に移住しました。ほぼ夜逃げのような気持ちでした。そして、息子のために自分でやろうと決心して、福祉のことは何もわからないまま立ち上げたのが、ディスカバリープロジェクトでした。

福祉だから、という前提を外す

西田 もともと息子のためだったので、最初は就労支援をやろうとしたんです。でも実際に始めたのは、放課後等デイサービスでした。

放課後等デイサービスの様子

息子も中高生のころに引きこもりを経験していて、当時は発達障害という言葉もなかったのですが、あのとき、誰かが少しでも理解してあげられていたら、二次障害で統合失調症にはならなかったんじゃないか、という反省があったんです。

その翌年から農業も始めました。収入を確保するための一つの手段です。最初から決めていたテーマは「自立」でした。

── 農業にはもともと興味が?

西田 いや、それがまったくなかったんです(笑)。

猪名川町は田舎で、閉鎖的なところもある。それでも、地域の人に役立つことをすれば味方になってもらえると思って、耕作放棄地を有効活用する事業をやろうと考えた。それが農業だったんです。

にんにくづくりは、YouTubeで一から学びました。今は素人でもあらゆる情報が得られますから。YouTubeを観て、やってみて、の繰り返し。たくさん失敗もしています。

そのうち、有機認証に詳しい人が入社してくれて、有機農業に切り替えました。栽培から収穫、加工、パッケージのデザイン、営業まで全部自社でやる。おかげさまで、今では兵庫県内で有数の有機にんにくシェアになっています。

とにかく思っているのは、障害者や内職のような、ちょっと暗いイメージをなくしたいなということです。サイトのデザインなどにもつながるんですが、なるべく福祉の匂いを消したいと考えています。

ジャーニー

あの1月、うまくいっていなかった

── HOPに手紙を送った1月には、何かあったのでしょうか。

西田 組織づくりにずっと悩んでいました。実は創業して4年目に一度、チームを解散しているんですよ。

立ち上げのときに採用した福祉の資格や経験を持つメンバーと、民間出身の僕とのあいだで、意見や価値観がかみ合わないことが多くなってしまって。

それでもう一度、自分がどういう福祉をやりたいのかをみんなに伝えて、資格という条件もいったん外して、人柄で選ぼうと。ポイントは「素直さ」です。

── 素直さ、ですか。

西田 素直さを基準に集めた35名が、今ディスカバリーを支えてくれています。ところが、今年の1月に、信頼を寄せているあるメンバーから言われたんです。「社長、今、全然うまくいってないんですよ。言いたいことを言えない雰囲気があります」と。

そうならないように努めてきたつもりだったので、すごくショックでした。どうしたらいいんだと。そのときに、あの本に出会ったんです。

その一言で、自信を取り戻した

岩崎 4月3日に初めて伺ったとき、社員のみなさんをご自宅に呼んでいただいて、一緒に食事をしたんです。その時のみんなの表情がとても明るくにこやかで、こんな表情のできる社員がこれだけ揃っているって、すごいなと思いました。

福祉を支援だけで終わらせず、自立をキーワードにしてビジネスを育てている。西田さんはファッション業界にいらしたので、パッケージのデザイン一つにも気を遣っているんです。

畑で良いにんにくをつくるだけじゃなく、市場で選ばれるための価値をしっかりつけている。福祉の会社で、本気でビジネスをやろうとしているのは本当にすごいと思います。

西田 あの4月の頃は、外から見たらうまくいっているように見えていたけれど、実は内部は疲弊していたんです。私も、常務である家内も疲れていて、自分たちがやっていることは、本当にこれで合っているのか、迷っていた。そこにお二人が来られて、本物だと言ってくださった。

それで社員が泣きましたからね。みんな抱き合って泣いた。自分たちがやってきたことは、ちゃんと評価されるんだと。自信を取り戻すきっかけになったのが大きかったです。

HOPのお二人から学んだのは「受け入れて、心から承認してあげる」ということでした。それは一番の学びでしたね。

絡んだ糸がほどけていく

── 実際にHOPとの関わりが始まってみて、変わったことはありますか。

西田 正直なところ、過去の苦い経験もあって、外部の方に関わっていただくことには不安な気持ちもありました。もちろん、岩崎さん、畑さん、それぞれのご経歴を拝見しても、信頼に値する方々であることは十分理解していました。それでも実際に関わっていただくまでは、どこか慎重に様子を見ている自分がいたのも正直なところです。しかし、その不安は初回からすぐに払拭されました。

まだ4回目が済んだところですが、回を重ねるごとに絡んだ糸がほどけていく感覚がしていて、意見をうまく言えなかった人が、発言してくれるようになった。組織が変わるとは、制度や仕組みだけでなく、人と人との間に流れる空気が変わることなんですね。その変化を今とても幸せに感じています。

研修風景

西田 僕らは障害を持つ人たちに接する仕事なので、当たり前のことがすごく大事なんです。ちょっとした気遣いとか、声かけとか。それを言葉にしたのがコンパスなんですが、つくってはみたものの、意図したようには伝わっていかなかった。

僕は民間出身だから、岩崎さんが話してくれるような社会や経済のことはみんなわかっているだろう、と思い込んでいたんです。でも、実はよくわかっていなかった。みんなの理解が少しずつほぐれていっている。ほぐれていくにつれて、コンパスが浸透していくんだろうなと感じています。

畑 今は毎月一度、猪名川に行って全体研修と管理職のマネジメント研修をやっています。最初は全体研修まで行う予定はなかったんですけど、すっかり西田さんのペースに巻き込まれて(笑)。毎回90分しっかり入れ込んでいます。

全体研修の設計もすごく楽しいです。視野を少し広げてもらうために、ディスカバリーは外からどう見えているのかという話を2回やり、3回目はあえて経済の話に振ってみたり。でも、皆さんとても素直で、吸収する力が強い。本当に研修を楽しんで受けてくださるんですよ。

── 逆に、HOPのお二人がはっとさせられたことはありますか。

畑 いっぱいあります。先日も何名かと面談したんですけど、はじめは言葉を選びながら話していた人が、最近は自分の言葉で話してくれるようになってきた。一人ひとりがたのもしくなっていることに毎回驚かされます。これからどうなっていくんだろうって、良い意味で少し怖いくらいです。

岩崎 皆さん本当に良い仕事をしているので、もっと自分に対して自信を持ってほしいですね。もうちょっと強くなってほしい。

そして、自分一人が強くなっても、組織は強くならないのです。お互いを信頼してサポートし合う関係ができると、組織はすごく強くなる。その兆しが、少し見えてきているかなという感じはします。

能力がないんじゃなく、居場所がないだけ

西田 農業をやってよかったと思うのは、体を使うハードな仕事で、作物の成長が実感できるから、達成感があるんですよね。にんにくは梅雨前の2週間しか収穫できない。そこで失敗すると、全部だめになる。

就労で参加されているメンバーさんは、今2年目なんですが、1年目は「きついお願いをしすぎたかな、明日来なかったらどうしよう」と思ったんです。でも、全員休まず来た。最後に撮った写真は今も携帯の待ち受けにしているんですけど、最初と表情がガラッと変わっていて。

そのとき気づいたのは、この人たちは支援を求めているのではない、ということでした。私たちは働ける、活躍できる。支援される側じゃなくて、支援する側に行きたいんだ、というのが本音なんだろうなって。

ディスカバリープロジェクトの利用者の人たちは、能力がないんじゃなくて、居場所がないだけなんです。だから、活躍できる居場所を僕らがつくって、どうぞとお渡しする。そこで、その人たちが活躍する。

就労継続支援A型事業所での作業の様子

乗ってしまった船

西田 今は創業から9年が経ちましたが、10年目までが第一章だと思っているんです。財政のベース、組織のベース、支援力のベース。この3つをしっかりさせて、11年目から第二章に進みたい。

やりたいのは、大げさに言うと日本の福祉をよくすることなんです。田舎でもこういう形ができるんだよと示して、ほかの人たちにも真似してほしい。そのためには僕たちの力だけでは足りないので、いろんな方との関わりが必要になります。

愛と経済って、どちらもすごく大事なんです。福祉は愛情が大事だし、自立するためには経済も大事。今の福祉に足りていないのは、経済のほうなので、ビジネスの世界で経験を積んだ人に、どんどん福祉に入ってきてほしいんですね。

畑 私はポリネーターとして、いろんな方をおつなぎしています。西田さんのためになる人は全部つなごうと思っています。

西田 こんなにしてもらっていいのかって感覚です。駄菓子屋に行った子どもみたいになってますね(笑)。

畑 社会に一石を投じるには、相当な覚悟が必要です。くじけないでほしいから、強い人たちを育てていくことと、私たちがそれを支えること。それを最近よく考えています。

西田 HOPさんに手伝ってもらえて、本当に夢を見ている感覚です。僕は福祉でリアリティを追求したいんですね。自立したいという人がたくさんいるのだから、国の制度を活用しながら、そこに民間の力を足していく。これからいろんな波風も起こると思いますけど、畑さんの「私たちが支えるから」というのは、ちょっとしびれますね。

畑 乗ってしまった船ですから。いや、乗せられた、といいますか(笑)。だから、一緒に楽しんで航海していこうと思っています。

猪名川の桜の前で


ディスカバリープロジェクトのウェブサイトは、こんな言葉で始まります。「新しい発見の旅へ。航海をはじめよう」。会社はディスカバリー号と呼ばれ、社員はクルーと呼ばれています。

船では、いろんなことが起きていました。

利用者は、支援されたいのではなく、活躍できると認められたい。社員は、いい仕事をしているのに、それを認められてこなかった。そして経営者である西田さん自身も、外からどうみられているか確信が持てていなかった。

HOPが最初にしたことは、制度をつくることでも、仕組みを入れることでもありませんでした。「本物だから自信を持とう」と言うこと。それだけでみんなが泣いたということは、この会社が何を必要としていたのかを、雄弁に語っています。

第一章の終わりから第二章へ。HOPの二人が乗り込んだ航海の様子を、また半年後、一年後に聞かせてもらえたらと思います。

HOPのお二人、そして西田さん、本日はありがとうございました。


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