楽しいと感じるところから、学びは始まる

「年齢も経験も関係なく、人と組織のマネジメントを学べる場をつくる」

そんな想いから生まれたのが、HOPの「人事の寺子屋」です。

前回のコラムでは、寺子屋がどのように始まり、どんな歩みを重ねてきたのかを紹介しました。

では、この場に集まってくる人たちは、どんな思いを持って参加してくるのでしょうか。そして、学びを進めるうえで、いちばん大切なこととは何なのでしょう。

今回は「人事の寺子屋での学び方」というテーマで、畑さんと岩崎さんに話を聞きました。

本記事は、カンパニーエディター(エドゥカーレ)が取材・編集を担当。

「人事の寺子屋」に興味がある人にとって、学びの片鱗が見える面白い話だと思います。

取材・編集/エドゥカーレ


人事の寺子屋に来る人は、みな何らかの悩みや違和感を抱えている

──:
人事の寺子屋に参加する人は、最初はどのような状態であることが多いんでしょう。

畑:
多いのは、働き方や組織に何らかの悩みや疑問を持っている状態です。違和感に気づきながらも言語化がまだできる状態ではなく… もやもやしている感じ。

そして、一人ひとり抱えているものは、それぞれ異なります。

たとえば最近の受講生で、ある40代の管理職の女性は、素晴らしい理念を掲げる会社に勤めながらも、規模をどんどん拡大していこうという経営のあり方に違和感を覚えていました。それでも「とにかくやるしかない」と、疑問を感じつつ、がむしゃらに働いていたのです。

それが、人事の寺子屋に来て開眼しました。赤ペンレポートの内容も分量もすごかったですし、学びを深め、一皮も二皮も剥けたという印象です。

岩崎:
彼女はがんばって会社の方針についていこうという気持ちと、何か違うなっていう気持ちのギャップを感じていて。自分がどう行動すればいいのかわからず、悩んでいたわけですね。

畑:
赤ペンレポートの熱量も含めて、自分のこと、会社のことを振り返り、棚卸して考えることに挑戦してくれました。

人生が変わった、とまで言ってくれたし、最後の修了式では大粒の涙を流していました。

それは彼女自身が変わったというよりも、仕事や会社に対する彼女の見方が変わったんだと思うんです。

──:
見方が変わった?

岩崎:
いまある状況を捉え直し、自分がどう行動していけばいいかが、自分なりに理解できた。働く意味と目的みたいなものが見えるようになったんじゃないかなと思います。

畑:
もう一人は、大手コンサルティング会社で働いているとても優秀な男性の若手社員です。彼は育児休業の間に人事の寺子屋に参加してくれました。

めちゃくちゃ働いていて、仕事への評価も高く、給料も多分すごく良いんだと思いますが、やはり今の会社での自分の仕事や働き方に違和感を覚えていたんです。

岩崎:
彼が感じていた違和感は、自分の仕事が誰かの役に立っていると感じられない、ということでした。

大量の仕事を上手にこなし、お客さんからも評価され、やるべきことをやっているんだけれど、その仕事の意味を見つけ出せなかった。

畑:
彼は『人間主義的経営』(注:岩崎が翻訳した本)を読んで、私たちを訪ねて来ました。彼は没入してましたね、授業に。

自分の頭の中が整理され、ある程度の答えが見え始めたんだと思います。いろいろな示唆や刺激を得て、気づきが生まれたのかな。

──:
今のおふたりは、最初に来たときの表情や姿勢はどんな感じだったのでしょう。

畑:
最初の女性に関しては、やさぐれてました(笑)。

──:
やさぐれていた?

畑:
そう。やさぐれというか諦めというか。どうせもう!みたいな感じ。

岩崎:
一方で、そう思いたくない自分もいて、揺れているんですよね。人事の寺子屋には、彼女みたいに、何らかの葛藤を持って来る人が多いんです。

畑:
もうひとつは、その若手の男性がそうだったんですが、疲れすぎている人ですね。

岩崎:
社内や取引先から優秀だと認知され、上の人もそう見ていて、本人もそう見られていることがわかっている。

だけど自分のやっている仕事はなんなんだろうって、そう思いながら働いて、疲れてしまっている。

──:
優秀であるがゆえに、そういった葛藤を持たれるんですね。

畑:
優秀かどうかは必ずしも関係なく、違和感や疲れなど、何らかの葛藤を抱えて来る人が多いです。

もう一人印象的だったのは、体質の古い会社で働いていた男性です。その人はすごく性質の良い人なんだけど、何かつらそうにしていました。都心から離れたのんびりした地方都市にある会社だったから、社外の人や異文化との交流も少ない。

だから彼には絶対に来てほしいと思って、社長にそうお伝えしました。経理担当の人なんですけどね。

岩崎:
人事の寺子屋では、会社にいるときとは別人のように明るくて、講義や他の受講生との交流をとても楽しんでいました。

会社や他の社員に対して何を言っても無駄だ、っていう諦めがあったから、まったく違うタイプの人がいる寺子屋が、たぶん居心地良かったんだと思います。

畑:
赤ペンレポートで最後に彼が書いてくれたのが、出会いと環境についてでした。

「人や会社との出会いによって、自分の進むべき道が見えなくなったり、良く見えるようになったりと、すごく変わってくる」

彼はそう書いてくれました。

心から人事の寺子屋を楽しんで、感謝してくれた。涙が出るくらい嬉しかったですね。

優秀さの裏側にある、葛藤と疲れ

──:
参加される方々は、どういった期待を持って参加されるんでしょうか。たとえば、すぐ役に立つ知識や、自分ではわからない正解を教えてもらえると思って来るとか。

畑:
違うと思いますね。最初にお話しした女性は、私がスマイルズ時代から知っている人の元部下だった方でした。その知り合いが人事の寺子屋の卒業生で、すごく良かったと言ってくれたんです。

赤ペンとか心震えるよ、オレ何回泣いたかわかんないって。それで元部下のその子に、絶対行ったほうがいいよって。

信頼する人から強く勧めてもらって、学びを信じて来た、ということだと思います。

──:
学びや発見があるという、わくわくする気持ちを持っていたと。

岩崎:
そうですね、彼女は最初からそういう気持ちで来てくれていました。

二人目のコンサルタントの若手の男性は、『人間主義的経営』の世界をもっとよく知りたいと興味を持った。それで人事の寺子屋に参加してくれましたね。

あえて言うなら、最初に手放してほしいもの

──:
そんな方々にあえて言うなら「寺子屋に来て最初に手放してもらいたいもの」ってなんでしょうか。

畑:
かっこつけるな、わからないことはわからないでいいから、ということかな。

わからないことはわからないでいいし、違和感は大事にしたほうがいい。それは最初に言います。

みんな知らないうちに、かっこつけなきゃいけないっていう、ビジネスマンとしての常識にとらわれているんですよ。錆びた鎧を着ているような感じ。それはこの場では脱いでほしいですね。そのために小さい人数で開催しているので。

年齢とか経験とか社長とか関係なく、フラットに、ひとりの人間として学ぶことが大事です。

岩崎:
寺子屋の受講生は、年齢もバラバラだし、キャリアも業種も違う。マネジメントをかなり経験している人もいれば、まったくやったことがない人もいる。

いろんな人がいるから、鎧を着ていても意味がないわけです。でも不思議なことに、自然に鎧は外れていくんです。一緒に講義を受けて、みんなと話しているうちにね。

だから質問の、手放してほしいもの、でいうと、何かを手放してくれというアプローチはないんです。

手放すんじゃなくて、視界が広がる、見えている世界が変わる。

「頭で考え、心で感じる」。寺子屋では繰り返し言っていることですが、それが重要だと思っています。

畑:
簡単にいうと、散らかっていた部屋を片付けた感じかも。本当はそばにあるけど、散らかっていて見えなかったものが見えるようになる。

私はこんなものを持っていたんだ、逆にこれは要らなかったんだって気づく。そんなイメージですね。


成長をわけるのは、素直さと好奇心

──:
世界が広がったことに気づくことが肝なんですね。

畑:
そう。自分で気づくことが大事です。

振り返りをきちんとすると、学んだことがしっかり頭に入る。だから、腹落ちする瞬間がある。みんなそうおっしゃいます。赤ペンレポートを見ていても、その変化がわかります。

──:
腑に落ちたことで、その人はどう変わるんでしょう。発言とか、表情とか。

畑:
年収が増えたっていう人もいました(笑)。つまり、より活躍できるきっかけを得たと。

第一期の卒業生には、起業してすごく会社が成長している経営者や、地方で自ら人事の寺子屋のような塾を主宰して、広めてくれている人もいます。

岩崎:
そんなふうに成長した人は、学んだことを活かして積み重ねた結果、そうなったということなんですよね。

身の回りの出来事にどう対処するか。人事の寺子屋の前と後ではものごとへの向き合い方が変わるので。その結果として年収が上がったり、会社の経営がうまくいったりするんだと思います。

畑:
いま話していて気づいたんですが、第一期から「素直さは成長の糧だ」とずっと言っていたんです。素直に学べるかどうかは、ものすごく大事です。

岩崎:
素直さは、別の言い方で言うと、好奇心があるということですね。他人の言葉や身の回りの出来事を感じ、考える力があるということ。そういう人はやっぱり伸びますね。

一方で、素直になれって言われても、なかなかそうなれない。人に言われてなるものではないんですよね。

素直になるのは、面白いと感じられるからなんです。

──:
素直になれないまま学ぼうとした場合、何が起きるんでしょう。

岩崎:
知識だけを得ようとしますね。でも知識だけでは役に立たないんです。だから成長しない。

知識は世の中にすでにあるものなので、それだけを手に入れても変わりません。

だから人事の寺子屋では、知識の話はほとんどしません。考え方とか、ものの見方とかを身に付けるのが成長だと思うので。

──:
「成長」というのは、具体的にどういうことでしょうか。

岩崎:
突き詰めると、「面白い」と思える人になれるかどうか、だと思います。

面白いとはどういうことか。「面白い」は「面(めん)が白い」と書きます。

目の前が真っ白になること、自分を縛っていた既成概念が外れて、見えていなかったものが見えるようになる。それが「面白い」ということなんです。

世界がパッと広がる。黒に見えていた世界が、真っ白になって広がっていく。

面白いという感覚を持っている人は、素直にいろんなものを吸収できる人だと思います。

畑:
私たちはきっかけを与えているだけなので。いろんなアプローチはしていますが、それに気づいて自分ごとにできるかどうかは、その人次第です。素直になって、自分で面白がれるかどうか。


人事は、特別な人のための学びじゃない

──:
参加を迷っている人の中には、自分は人事とか経験したわけでもないし、と思っている人もいると思うんです。

畑:
そこは本当に気にしなくていいんです。これまでも、美容師の方や飲食店のシェフの方などが参加してくれていますし。

岩崎:
ビジネスマンとして学んできた経験がなくても、楽しめるんです。人事の寺子屋の話は、何十年も会社を経営してきた経営者も、そういう経験がまったくない人も、同じように面白いはずです。

医者、弁護士、大企業の管理職、フリーランス、スタートアップの経営者、料理人、獣医。業界やキャリアも、さまざまな人が集まるけれど、みんなそれなりに面白いと思える。

それは、今まで気づいていなかったことに気づくからなんです。自分が経験して来たことと、寺子屋で学んでいることが、それぞれの形でどんどんつながっていって、あれってそういうことだったんだ、と気づく。それは受講生に共通する体験だと思います。

こういう場所はあんまりないんじゃないかな。ある意味、とても不思議な場かもしれません。

──:
人事のことを経験したことがない、だけどなんとなく寺子屋に興味がある。そんな人に一番伝えたいメッセージはどんなことですか?

畑:
人事を誤解しているんじゃない? っていうことですよね。人事って人と組織のマネジメントなので、そこに関わっていない人は一人もいないんです。

だから誰もが学べるし、学ばないといけないと思っています。

家庭だって、結局は人と人が関わることじゃないですか。マネジメント的なことを必ず経験しているはずなんですよね。

マネジメントという目線で仕事ができると、見える景色が変わります。

いわゆる普通のスタッフとは全然違う仕事ができるようになる。それはすごく重要なことだと思うんです。


目の前が真っ白になるような感覚。

世界が少し広がったと感じる、その瞬間こそが、学びの始まりです。

人事の寺子屋は、知識を渡す場ではありません。

自分で気づき、面白がるための視点をひらく場なのだと思います。


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