HOP Library #6『スモール イズ ビューティフル』(E.F.シューマッハー著、小島慶三・酒井懋訳、1986年 講談社学術文庫)

著者は、1911年ドイツのボンで生まれた経済学者。独、英、米の大学で学び、シュンペーターやケインズに師事し、若い頃にナチスの台頭と世界恐慌を経験する。大戦中は滞在先英国で敵国人と扱われ、戦後は英国のドイツ占領政策に関わり、母国から反逆者と見なされる。英国を拠点に政府機関の顧問として石炭、エネルギー、有機農業、インドやアフリカの経済開発の現場に関わり、資源や土地、東洋文化や仏教への造詣を深めた。
1973年発行の本書では、資源を大量消費する工業社会と巨大技術や科学がもたらす人間疎外の未来に警鐘を鳴らし、不幸にもその予測の多くは実現してしまった。工業の基本原理は再生不能な資源を消費し人間(不確実性=自由)を排除する点にある、貪欲・嫉妬心・競争を基礎とする経済が平和をもたらすことはない、などの指摘は、人知の及ばぬ巨大技術が広がり巨大国家の覇権争いが深刻化する今こそ、一段と心を打つ。私たちはこの50年でいったい何を学んだのだろうか。
以下、一部を抜粋して紹介する。
「農業の基本原理は、生命を扱うという点にある。一方、工業の基本原理は、人間の造り出した過程を対象とするという点にある。この過程は、人造の、生命のない材料を使ったときだけ信頼できるものとなる。工業の理想は生命を排除することである」
「人間をたがいに争わせる貪欲と嫉妬心を意識的にあおることで成り立っている経済を基礎にして平和が築かれるというのは幻想である」
「家族の次に社会の真の基礎を成すのは、仕事とそれを通じた人間関係である。その基礎が健全でなくて、どうして社会は健全でありえよう。そして、社会が病んでいるとすれば、平和が脅かされるのは理の当然である」
「物的資源の中でいちばん偉大なものは土地である。ある社会がどのように土地を利用しているかを知れば、その社会の未来をかなり正確に予言できる」

(岩崎)