HOP Library #1 「人間主義的経営」(ブルネロ・クチネリ著、岩崎春夫訳、2021年 クロスメディア・パブリッシング)

 

2019年5月、ジェフ・ベゾスを始めシリコンバレーの名だたる経営者16名がイタリア中部の小さな村に集まり、3日間語り合ったという。迎えたのはその村に本社を置く高級アパレルブランドの創業者ブルネロ・クチネリである。

極端な格差や地球環境悪化の元凶として資本主義を糾弾する声が世界中で高まっているが、社会主義や計画経済に戻っても社会が良くなるとは思えない。IT長者たちはそんな疑問を胸に片田舎のソロメオ村に集まったに違いない。

ブルネロ・クチネリは、創業時より「人間の尊厳を守り育むこと」を事業の目的に掲げていた。高い給与を払い、最高級の製品をイタリア国内で生産し、本業の収益を職人学校や、村人のための劇場や公園、美しい景観と雇用を生む農園の整備に充ててきた。自社が関わる人々、地域社会、周囲の自然を丹念に手入れしてその価値を高めてきたのである。

倫理的理想を掲げる一方で、同社はミラノ証券取引所に上場し、収益力も財務基盤も盤石である。その理由は一体どこにあるのか。それは同社が人間、社会、自然を自社の資産と考えて大切に手入れし、独自の資本 – 信頼、尊敬、協力、愛情、美、手仕事、自然の景観、未来への希望 – を作り出しているからである。他社にない資本が生み出す商品は、世界中で強固なファンを獲得し、高い収益を生み、その収益は再び人間、社会、自然という大事な資本の価値を高めるために再投資されていく。見事な循環、見事な資本主義の使い方である。

本書は、ブルネロ・クチネリの幼少期の家族や農民同士の温かい触れ合いと自然との共生、偉大な哲人・賢人たちとの内面の対話、そして事業を通じて出会った世界各地の人々との交流を瑞々しい筆致で描き出している。読み進む内に読者は自ずと資本主義を使いこなす人間の知恵を学び取るであろう。

美しくなることで強くなる。21世紀の経営のバイブルとも言うべき人文学的経営書である。

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