
前回のコラムで、畑さんがふれていた多摩美術大学のビジネススクール。
多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム(TCL)といって、デザインの視点から経営とリーダーシップを学ぶ、社会人向けのプログラムです。
今年の1月に55歳を迎えた畑さんは、春から仕事と並行してこのプログラムに通いました。出張、株主総会、経営統合の交渉など。余裕があったとは言えない日々のなかで、無事に走り切った畑さん。
本記事は、カンパニーエディター(エドゥカーレ)が取材・編集を担当。
今回は、TCLの場でどんな学びを得たのか、学びからどんな着想を持ったのか。聞かせてもらいました。
取材・編集/エドゥカーレ
55歳、一人合宿で決めたこと
── まずはおつかれさまでした。さっそくですが、どういった経緯でTCLに参加するに至ったのでしょう?
畑 実はHOPを始める前に、大学院へ行こうかと思っていた時期があって。当時はMBAコースを考えていました。でも、周りにすごく止められまして。財務や法務をわざわざ学ぶより、人事という専門性を持っているんだからそっちをやったほうがいい、と。働かないのはもったいない、社会に貢献しろ、みたいなこともすごく言われて(笑)。
ただ勉強するのは好きなんです。人事の寺子屋を13年やってきて、社会人が学ぶことで、こんなに変化するのかということに毎回感動していますから。
一方で自分を振り返ると、年齢とともに頭も体も心も錆びてきていると感じることもあって。新しいものを取り入れたい、学んでいる人たちの気持ちを、もう一度理解し直したいとずっと思っていました。
TCLのことは、HOPの一番最初のクライアントだった男性が通っていて、すごく面白い、私に合ってるという話を聞いていたんです。
── そのタイミングが今年だった、ということですね。
畑 TCLのことは頭にずっとあったんです。去年の12月に、一人合宿をしたんですよ。1月に55歳になるので、そこから還暦までの5年間、何をして過ごそうかなと。やることを書き出した1つに「TCL受験・合格・通学」があったんです。
組織デザインやコミュニケーションデザインは専門領域としてやってきたけれど、「デザインってそもそも何だろう」と広く捉えたときに、いろんな解釈がある。老後はグラフィックデザイナーとして食べていこうかと思っていたぐらい、もともとデザインは好きなんです。だから、オシャレさがあまりない人事というものを、デザインの力でもっとかっこよくしていきたい気持ちもあって。
1月に書類と課題と小論文を出して、2月に面接。3月に合格通知をもらいました。面接は信じられないくらい緊張しましたが、合格通知が来たときはすごくうれしかったです。
「呼ばれたな」と思った
── 実際に通われて、いかがでしたか。
畑 自分が最年長だろうと思っていたら、三番目だったんです(笑)。最年長の方は、大手メーカーの研究者から弁理士の資格を取って、今は開発をされている方で。とにかくパワフルだし、定年後も引き続き働きながら、今から学ぶってすごいことだなと思いました。彼とは一緒に頑張った仲間、戦友というか、同志です。
授業はインプットとアウトプット、両方する形式です。インプットは外部の講師の方が来てくださって話をしてくれます。そのお話に、私が勤めていた寺田倉庫やスマイルズの話も出て来ました。そして、クライアントとの関わりや知り合いも驚くほど、たくさんつながっていました。
だから、これはなんかこの場に「呼ばれたな」という感覚がなんとなくあったんです。

私は多摩美でキャリアの授業をしていたこともあったり、美大生の採用もしていたので多摩美の卒業生ともたくさん会ったことがあるんですが、多摩美を悪く言う人に会ったことがないんですよ。
先生たちはとにかく親切だし、事務局の方たちも本当に愛があって。修了式の日には、当時就職課にいてとてもお世話になっていた広報の阿部さんがわざわざ会いにきてくださって。学び以外にも、たくさん得るものがありました。

インプットのなかで、とくに刺激を受けたのは武蔵野美術大学の理事長の長澤先生や放課後NPOアフタースクールの創設者で新渡戸文化学園という小中高一貫教育の学校の理事長をされている平岩さんのお話です。
長澤先生は、とにかく情熱と熱量が圧倒的で、 その姿勢そのものに大きな刺激を受けました。一方、平岩さんからは、想いを持つだけではなく、それを実際に社会の中で形にしていく力を感じました。
私自身、これからやりたいと考えていることがあり、それを「いつかやりたい」で終わらせず、本当にやってみようという覚悟ができたのは、こうした方々の生き方や行動する力に触れ、そのパワーを受け取ったからだと思います。
今更、来る必要がありますか?
畑 アウトプットのほうは、卒業までにグループで「美しいビジネス」を1つ作るPBL(課題解決型学習)があって。年齢も経験も関係なく、対等な関係で1つのものを作るって、すごく難しいんですよ。正直、自分一人でやったほうが早いって思っちゃう時もありました。
実は面接のとき、一番お世話になった先生に「畑さん、今更来る必要がありますか?」って言われたんです。私は笑いながら「ダメですか?」って答えたんですけど(笑)。
── 面接ですごい会話ですね。
畑 これまで、プロダクトも作ってきたし、寺子屋も創って、長く運営している、HOPという実装する会社もやっている。だから今更来なくてもいいんじゃないの、という意味だったと思うんです。
私は、TCLでの学びを学びだけで終わらせたくないと思っていました。そこで、PBLに取り組む一方で、自分自身の事業構想も並行して考えたんです。
PBLでは、グループで女性のキャリア支援をテーマに、ライフデザインカードとアプリを制作しました。授業ではユーザーインタビューも行うのですが、私たちは一石五鳥を狙い、思い切って代官山の本屋さんでイベントもを開催して。働く女性15名に参加いただき、以前このコラムにも登場いただいた清泉女子大学の安斎徹先生をお招きして、トークショーと懇親会、さらにプロダクトの実証実験まで行いました。
本屋もそうですし、カード制作は寺子屋卒業生の印刷会社にお願いするなど、これまでのつながりもフル活用しました。皆さんには感謝してもしきれません。
自信を持って言えるのは、課題、宿題は一切、手を抜かずにやり通したと胸を張って言えます。いつも深夜になっていましたが、絶対に締め切りに間に合わせる、とにかくアウトプットをしっかりする。それを自分に課してやりました。
意志があれば、乗り越えられる
── 仕事も相当お忙しかったのでは。
畑 期間中、出張が8回あって、緊迫した経営統合の交渉があり、退任、就任で株主総会が2回、研修が10回……。最終便で帰ってきて翌朝授業、ということも度々でした。68時間の履修でしたけど、1分たりとも気を抜かず、やりきったなと。
最後の個人発表でみんなに話したのは、過酷な状況でも、自分の意志があれば乗り越えられるんだ、ということ。会社が忙しいからとか、家庭があるからとか、言い訳ってできるじゃないですか。でも言い訳癖がついたら、これから先つまらない人生になる。
私、最初にマイルールを27個決めたんです。最後まで頑張り続ける、誰かと比較しない、学ぶことを楽しむ……。禁酒だけは守れていないんですけど(笑)。
55歳という区切りを自分の中でつくって、これからの未来のために、あえて新しい環境に身を置こうと思ったんです。そのタイミングで出会ったのがTCLでした。結果的に、 未来のために自分で自分のお尻を叩いたような感じかな。

学びを、社会へ
畑 最後の個人発表は、「学びを社会へ」というタイトルにしました。TCLで得たものを、自分の中に留めておくのではなく、これからどう社会に返していくか。そこまで考えて、初めてこの3カ月の学びが完結するような気がしたんです。
実は、次にやりたいこともいくつか決めています。もったいぶって、まだ今は詳しくお話ししないでおこうと思いますが(笑)。これまでHOPでやってきたこととは少し違う形で、人や学びをつないでいくようなことを考えています。
一つだけお伝えするなら、今年10月に岩崎さんの本が出版されます。岩崎さんには私も早く書けとしつこく言われ続けてきたので、いよいよ書くしかないな、と(笑)。これまで人と組織に向き合ってきた経験や、自分なりに考えてきたことを、一冊の本にまとめたいと思っています。
そしてTCLを経て、大学院に行きたいと思うようになりました。これからは実践だけでなく、人事や人と組織について、研究という側面からも、もう少し専門分野を深く掘り下げていきたいと思っています。
もちろん、TCLで得たものはHOPの仕事にも還元していきます。寺子屋をはじめ、今あるものをより良くしていくことと、新しいことを始めること。その両方をやっていきたいですね。
ただ、私は今、人生の季節でいうと冬らしいんです。土の中で養分を吸収している時期。焦らずいろんなことを吸収して、3年後にすべて出していけるように、今は準備をしているところです。
── 最後に、このコラムを読んでいる方へ伝えたいことはありますか。
畑 Facebookに大学のことを投稿すると、めちゃくちゃ反応があるんです。私自身、大学に行ってみて本当によかったし、人生が変わったと感じています。長い人生を過ごすなかで、学び続けることの大切さや楽しさを、私の経験から感じてもらえたらいいなと思いますね。
あとは、岩崎さんといつも言っていますが、私たち世代が楽しくいることを見せることが重要で。それによって、未来に希望を持つ若者たちが生まれていくんだと、いろんなことをやってきて実感しています。
「呼ばれたな」。取材のなかで、畑さんが口にした言葉です。偶然に見えるつながりも、たどっていけば、自分が動いたところにしか生まれていません。
一人合宿のノートに書いた一行から、27個のマイルール、68時間の授業、そして新たな事業の構想など。一石五鳥を狙うという欲張りは、畑さんが受け取ったものを社会へ還元しようとしているあらわれなのだと感じました。
学び続ける大人の背中が、次の新しい誰かを生み出す。畑さんの冬が明ける頃の景色を、楽しみに待ちたいと思います。

HOPでは、2026/2/10 (火) – 2026/12/10 (木)にかけて、全6回の「抑々塾(そもそも塾)」も開催します。
「働くとは何か」「マネジメントとは何をしているのか」。
抑々塾(そもそも塾)は、そんな根源的な問いを出発点に、ビジネスの前提を問い直す学びの場です。全6回・単回参加OK・オンライン参加可能です。次回第5回は、10月8日(木)19時開催で、テーマは「経済活動 〜 獲得・所有・消費」です。
答えを急がず、対話を重ねながら考え続けることで、自分自身の思考の輪郭が少しずつ見えてきます。
日々の仕事に違和感や問いを感じている方にこそ、参加してほしい場です。
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